韓国料理と唐辛子〜伝来の歴史と使い分け
韓国料理に欠かせない唐辛子は、中南米が原産で、16世紀以降にアジアへ伝わった比較的新しい食材だ。伝来の経路については定説と異説があり、今も研究が続いている。ここでは唐辛子の歴史と、韓国料理での使い分けを整理する。
唐辛子はどこから来たのか
唐辛子は中南米が原産で、コロンブスによってヨーロッパへもたらされた。コロンブスは到達した土地をインドと誤認していたため、唐辛子(Red Pepper)もインドで栽培されていた胡椒(Pepper)の一種と取り違えたといわれる。その後16世紀にポルトガル人によって南欧を中心に広まり、アジアへ伝わった。
日本へは1542年(1552年説もある)にポルトガル人によってもたらされたとされる。南方から来たスパイスという意味で「南蛮(胡椒)」とも呼ばれた。当初は食用ではなく、観賞用や、足袋に入れて霜焼けを防ぐ用途で使われていた。
韓半島への伝来には異説がある
韓半島への伝来については、壬辰倭乱(文禄・慶長の役)前後に日本を経由して伝わったとする説が長く定説とされてきた。ただし、具体的な伝来の時期や経路がはっきり記録されているわけではない。
近年はこれに対する異論も出ている。壬辰倭乱の際に日本から持ち込まれたとする直接の記録はなく、むしろ朝鮮から日本へ渡ったことを示す記録のほうが多いという指摘や、それ以前の文献に見える「椒醤」が現在のコチュジャンにあたり、壬辰倭乱以前から朝鮮に唐辛子があったとする主張などだ。この論争はまだ決着していない。
なお江戸時代の日本の文献には「高麗胡椒」という呼び名も見られる。ここから朝鮮から日本へ伝わったとする説を唱える人もいるが、食用としての唐辛子が逆輸入されたものと解釈するのが一般的だ。いずれにせよ、どちらか一方向の単純な伝播ではなかった可能性が高い。
韓国料理での使い分け
韓国では唐辛子を形を変えて使い分ける。同じ「唐辛子」でも、料理によって使うものが違う。
・コチュカル(粉唐辛子):キムチや鍋物に使う。粗挽きと細挽きがあり、キムチには粗挽き、和え物には細挽きが向く
・コチュジャン(唐辛子味噌):発酵調味料。ビビンバやチゲの味付けに使う。辛さだけでなく甘みと旨みがある
・生の青唐辛子:味噌をつけてそのまま食べたり、刻んで薬味にする。チョンヤン(青陽)唐辛子は特に辛い
・乾燥した赤唐辛子:出汁を取るときや、丸ごと煮込みに入れる
韓国の鍋料理に唐辛子を使ったものが多いのは、寒さの厳しいソウルの冬を考えると理解しやすい。唐辛子には血行をよくして体を温める働きや、胃液の分泌を促して消化を助ける働きがあるといわれる。ビタミンAとCが豊富で、殺菌作用があることから、暑い地域でも食中毒対策として広く使われてきた。
日本の唐辛子文化との違い
日本では唐辛子は薬味として少量使うのが基本で、料理のベースになることは少ない。代表的なのが七味唐辛子だ。起源は江戸時代で、上方では七味唐辛子、江戸では七色唐辛子あるいは七種唐辛子と呼ばれた。芥子、ミカンの皮、胡麻、山椒、麻の実、紫蘇、海苔、青海苔、生姜、菜種などから、客の好みに応じて調合したものだった。市販品の原料は唐辛子、陳皮、ゴマ、山椒、麻の実、けしの実、青海苔の7種が一般的だ。
「南蛮」の名は料理名にも残っている。鶏の唐揚げに南蛮酢をかけたチキン南蛮の南蛮酢は、酢に砂糖と塩を加えた甘酢にネギと唐辛子を混ぜて作る。ちなみに南蛮人とは、16世紀にフィリピンや台湾を経て南方から来たポルトガル人・スペイン人を指した呼び名で、もとは古代中国の「南方の異民族」という意味の語だった。
韓国では唐辛子が料理の骨格そのものを作る。薬味として添えるか、味のベースにするか——この違いが、両国の食卓の印象を大きく分けている。
よくある質問
Q. 唐辛子はいつ韓国に伝わった?
A. 壬辰倭乱前後に日本経由で伝わったとする説が長く定説とされてきたが、それ以前から存在したとする異説もあり、決着していない。
Q. コチュカルとコチュジャンの違いは?
A. コチュカルは粉唐辛子そのもの、コチュジャンは唐辛子を使った発酵調味料。コチュジャンには甘みと旨みがある。
Q. 一番辛い唐辛子は?
A. 生の青唐辛子ではチョンヤン(青陽)唐辛子が特に辛いことで知られる。
Q. なぜ韓国料理には唐辛子が多い?
A. 体を温める働きや殺菌作用があり、寒さの厳しい冬と、保存食であるキムチの文化に適していたと考えられている。
Q. 「南蛮」とは?
A. 南方から来たポルトガル人・スペイン人(南蛮人)がもたらした唐辛子を「南蛮胡椒」と呼んだことに由来する日本での呼び名だ。


