韓国の通常賃金と平均賃金 ― 2024年の判例変更で何が変わったか【2026年版】
韓国の賃金には「通常賃金(통상임금)」と「平均賃金(평균임금)」の二つの基準があります。どちらを使うかは手当の種類ごとに法律で決まっており、日本の「基礎賃金」ひとつで考えていると計算が合いません。
そして2024年12月、この通常賃金の判断基準が大きく変わりました。 まずそこから整理します。
2024年12月、通常賃金の範囲が広がりました
韓国の最高裁にあたる大法院は、2024年12月19日の全員合議体判決で、通常賃金の要件とされてきた「固定性」を廃止しました(2020다247190、2023다302838)。
それまでは、「特定の日に在職している人にだけ支払う」「一定日数以上勤務した人にだけ支払う」といった条件が付いた賞与は、支給が確定していない=固定性がないという理由で通常賃金から外れていました。2013年の全員合議体判決以来の解釈です。
2024年の判決はこれを変更し、条件が付いていても、所定労働の対価として定期的・一律的に支払うと定められている賃金は通常賃金に含まれるとしました。
実務への影響は小さくありません。通常賃金に算入される手当の範囲が広がったため、それを基準に計算する残業代・休日手当などの金額が上がります。韓国企業の間でも賃金体系の見直しが進んでいる状況です。
雇用労働部も2025年2月6日に指針を改定し、名節賞与金・帰郷費・夏季休暇費なども通常賃金に当たると案内しています。
ただし、業績や会社の裁量によって支給されないことがある「純粋な成果給」は、引き続き通常賃金には当たりません。 一方で、勤務実績と関係なく最低限支払うことが決まっている部分があれば、その最低額部分は通常賃金に当たるとされています。
二つの賃金は、どこで使われるか
| 基準 | 主な用途 |
|---|---|
| 通常賃金 | 解雇予告手当、延長・夜間・休日勤労手当、年次有給休暇手当 など |
| 平均賃金 | 退職金、休業手当、災害補償、減給の制裁限度 など |
日本企業の担当者が混同しやすいのが休業手当です。休業手当は平均賃金が基準です(勤労基準法第46条)。
平均賃金はこう計算します
平均賃金は、算定事由が発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額です。
賞与と年次休暇未使用手当の扱いに注意が必要です。
平均賃金 =(3か月間の賃金総額 + 年間賞与 × 3/12 + 年次休暇未使用手当 × 3/12)÷ 総日数
賞与は3か月間の賃金総額に含めてから割ります。 割った後に足すのではありません。順番を間違えると金額が変わります。
もうひとつ重要な規定があります。 この方法で計算した平均賃金が通常賃金より少ない場合は、通常賃金を平均賃金とします(勤労基準法第2条第2項)。退職前の数か月が閑散期で残業がなかった、といった事情で平均賃金が下がったときに効いてきます。
退職金への影響
韓国の退職金は法律上の義務です。要件と金額は次の通りです。
- 継続勤務1年以上の労働者が対象
- 継続勤務1年につき30日分以上の平均賃金
- 退職事由の発生日から14日以内に支払う
- 退職金を請求する権利の時効は3年
計算の基準が平均賃金なので、先ほどの「通常賃金を下回れば通常賃金を使う」規定がそのまま効きます。 2024年の判決で通常賃金の範囲が広がった以上、この下限が働く場面も増えることになります。
退職金の詳しい要件は別の記事で扱っています。
駐在員(D-7・D-8)の退職金はどうなるか
日本本社から派遣された駐在員について、「退職金の対象になるのか」という質問をよくいただきます。
結論から言えば、査証の種別では決まりません。
判断されるのは、韓国法人との間に労働契約があるか、指揮命令を誰が行っているか、賃金を誰が支払っているかといった実質的な関係です。駐在(D-7)査証は海外企業との雇用関係を前提に発給されるものですが、それは在留資格の話であって、韓国の労働法上の労働者にあたるかどうかを決めるものではありません。
投資(D-8)査証の場合も同じです。日本本社との雇用関係が客観的に確認できるかどうかが問われます。
実務上、次のような場合は韓国法人の労働者と判断される可能性が高くなります。
- 韓国法人と別途の労働契約を結んでいる
- 韓国法人から給与が支払われている
- 韓国法人の指揮監督を受けて勤務している
「駐在員だから対象外」という前提で制度を組むのは危険です。 退職時に争われると、当時どういう契約と実態だったかが個別に判断されます。派遣の形態を決める段階で、労務士など専門家に確認しておくことをお勧めします。
なお、満期保険金を退職金に充当する設計をしている場合、保険金額が法定の最低退職金を下回れば、差額は使用者が負担します。
まとめ
- 2024年12月19日の大法院全員合議体判決で「固定性」要件が廃止され、通常賃金の範囲が広がった
- 在職条件・勤務日数条件が付いた賞与も、通常賃金に含まれ得る
- 退職金の基準は平均賃金。ただし通常賃金を下回る場合は通常賃金を使う
- 駐在員の退職金は査証の種別では決まらない。 韓国法人との実質的な関係で判断される
本記事は2026年8月時点の内容です。この分野は判例と行政指針の変更が続いているため、実際の制度設計や計算にあたっては最新の情報をご確認ください。
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