
韓国のカード社会と付加価値税(VAT)― 在住者のための決済と領収書の基本
韓国はカード決済が生活の隅々まで浸透している。数百ウォンの買い物でもカードが通り、現金しか使えない店を探すほうが難しい。その背景には付加価値税(VAT)を確実に捕捉するという税務上の仕組みがある。ここでは在韓日本人が実際に関わる決済と領収書の扱い、そして免税還付(タックスリファンド)が居住者には使えないという点を整理する。
なぜここまでカード社会なのか
韓国の最高額紙幣は5万ウォン。日本円にすると1万円札より小さい単位が最高額であり、家電のようなまとまった買い物を現金で払おうとすると札束を持ち歩くことになる。旅行者ならともかく、居住者にとっては現実的でない。自然とカード払いになる。
ただし理由はそれだけではない。事業者にとってカード決済は、売上と付加価値税の計算を単純にする。そして同時に、税務当局にとっても課税を容易にする。
現金での入金は、いくら売り上げたのかを事業者自身が申告しなければ当局には分からない。一方、カード入金や口座入金は記録が残るため、事業者の判断が介在する余地がない。高額紙幣を作らず、デノミネーションも実施しないという選択には、カード決済へ誘導して売上を記録に残すという側面がある、と見ることもできる。
韓国の付加価値税と日本の消費税の違い
日本の消費税には、事業規模によって原則課税・簡易課税・免税があり、課税方式も課税売上を認識するルールも選択制になっている。そのぶん計算システムの構築は複雑だ。
これに対し韓国の付加価値税は原則課税のみで、税金計算書(세금계산서)かカード決済の記録に基づくため、仕組みがきわめて単純である。事業者にとって計算が容易な制度は、当局にとっても徴収が確実な制度でもある。
税率は10%。日本の消費税と違って軽減税率がなく、店頭の表示価格は税込みが原則だ。日本から来たばかりだと「表示価格に後から税が乗る」感覚で身構えることがあるが、その必要はない。
現金で払うなら現金領収証を
カードが使えない場面や、現金のほうが都合がよい場面もある。その際に覚えておきたいのが現金領収証(현금영수증)だ。会計時に携帯電話番号を伝えると、その現金支払いが国税庁に記録される。
韓国で年末調整(연말정산)の対象になる給与所得者にとっては、カード利用額と現金領収証の合計が所得控除の計算対象になる。韓国の会社に雇用されている在韓日本人であれば、現金払いのときに番号を伝えるかどうかで控除額が変わりうる。
なお現金領収証には「所得控除用(個人)」と「支出証明用(事業者)」の区分がある。会社の経費として精算するのか自分の控除に使うのかで、伝える番号や区分が変わる点に注意したい。
免税還付は「観光客」の制度…
在韓日本人が選ぶ韓国料理 ― 日本の韓国料理店では出会えないもの
韓国料理といえばキムチと冷麺しか思い浮かばなかった人が、住んでいるうちに好みを見つけていく——在韓日本人にはよくある道筋だ。ここでは日本の韓国料理店では出会いにくいものを中心に、実際に食べて分かったことを整理する。店選びより先に「どの料理を頼むか」が分かると、外食の幅が一気に広がる。
まず挙げたい…

韓国料理と唐辛子〜伝来の歴史と使い分け
韓国料理に欠かせない唐辛子は、中南米が原産で、16世紀以降にアジアへ伝わった比較的新しい食材だ。伝来の経路については定説と異説があり、今も研究が続いている。ここでは唐辛子の歴史と、韓国料理での使い分けを整理する。
唐辛子はどこから来たのか
唐辛子は中南米が原産で、コロンブスによってヨーロッパへもたらされた。コロンブスは到達した土地をインドと誤認していたため、唐辛子(Red…

韓国の水道と飲料水 ― 冬の凍結防止と浄水器・ミネラルウォーター
韓国の水まわりで在韓日本人が実際に困るのは、冬の水道管凍結と飲み水をどう確保するかの2点に集約される。ソウルは氷点下10度前後まで下がる日が続くため凍結対策は必須で、水道水そのものは水質基準を満たしていても、建物の配管事情から浄水器や宅配水を使う家庭が多い。ここでは両方をまとめて整理する。
冬の凍結防止…
マッコリソムリエ体験で学ぶ、韓国の伝統酒の奥深さ
マッコリというと安価な酒というイメージを…

ひっつみ
秋になると恋しくなる日本の郷土の味と、それによく似た韓国料理の話。東北地方の秋の味覚「芋の子汁」と「ひっつみ」、そして韓国のB級グルメ「スジェビ(수제비)」を紹介する。
芋の子汁(いものこじる)
「芋の子」は里芋の別称だ。河川敷など屋外で鍋を囲んで芋の子汁を食べる「芋煮会」は、山形県の秋の風物詩として広く知られている。山形のほか、岩手・秋田・宮城・福島・栃木といった地域でも定番の秋の味覚だ。地域によって「芋煮」「芋の子汁」「芋の子喰い」など呼び方が異なる。
材料は里芋、鶏肉か豚肉、ニンジン、ごぼう、大根、ネギなどの野菜。いずれもソウルで手に入る食材ばかりなので、韓国に住んでいても再現できる一品だ。
ひっつみ
もうひとつの「ひっつみ」は、南部小麦の産地である旧南部領(現在の岩手県北部から青森県東部)の郷土料理。小麦粉を練って固めたものを手で「ひっつまんで」汁に投げ入れて作ることからこの名がついた。「とってなげ」とも呼ばれる。
韓国のスジェビ(수제비)
ひっつみは地域限定の郷土料理のため、韓国で材料を揃えて再現するのは難しい。しかし、そっくりな料理が韓国にある。B級グルメとして親しまれている「スジェビ」だ。
スジェビも、小麦粉を練った生地を手でちぎって汁に入れて作る。出汁も具材もひっつみとはまったく異なるが、生地の食感や作り方の発想はよく似ている。ひっつみの代用として味わうと、どこか懐かしさを感じる一品だ。
韓国では雨の日にスジェビやチヂミを食べる習慣があり、街の食堂や市場の屋台で気軽に味わえる。ソウルなら在来市場の食堂で見かけることが多い。
よくある質問
Q.…

京東市場・薬令市場ガイド ― ソウル東部の生活市場を歩く
ソウルの東側、地下鉄1号線の祭基洞(チェギドン)駅を出ると、韓方薬の店が建ち並ぶ薬令市場と、その先に広がる京東市場(キョンドン市場)がある。観光地化された市場とは性格が違い、いまも生活の買い出しの場として機能しているのが特徴だ。名節(旧正月・秋夕)の前に訪れると、その様子がいちばんよく分かる。
薬令市場と京東市場の関係
1号線の祭基洞駅2番出口を出ると、まず韓方薬の店が並ぶ薬令市場(ヤンニョン市場)が現れる。乾燥した薬材の匂いが立ちこめ、量り売りの店が続く。
その薬令市場を通り抜けた先が京東市場だ。ただし規模でいえば京東市場のほうがはるかに大きく、「薬令市場に隣接して京東市場がある」というより「京東市場の一角に薬令市場がある」と言ったほうが実態に近い。
京東市場側には野菜、肉、魚を売る店が並ぶ。韓国有数の規模の農水産物市場で、ソウル東部の食材供給を担ってきた場所である。
名節前は買い出し客でごった返す
秋夕や旧正月の連休前に訪れると、市場は祭礼の準備をする買い出し客で埋まる。長芋、里芋、ぶどう、りんごなど季節の野菜や果物が山積みになり、普段以上の活気になる。
日本ではあまり見かけないものが並んでいることもある。ゴーヤやところてんが売られていたりと、探しながら歩くこと自体が面白い市場だ。
注意したいのは売り方の単位で、一束・一山の量が日本の感覚よりかなり多い。ひとり暮らしや少人数の世帯では買うのをためらう量になる。見て回るだけでも十分価値があるので、無理に買わなくてもよい。
清涼里駅とセットで回れる
京東市場を抜けると清涼里(チョンニャンニ)駅に出る。江原道方面への列車の始発駅で、1号線と京義中央線も乗り入れる、ソウル東側の玄関口だ。
駅ビルにはロッテ百貨店とロッテマートが入っている。伝統市場と百貨店・大型マートが徒歩圏に併存しているのがこのエリアの便利なところで、市場で見て回ってから足りないものをマートで買う、という回り方ができる。
訪れるときの実際
行き方…

ソウルの自転車利用ガイド ― 公共自転車タルンイの料金と使い方【2026年版】
ソウルの自転車事情は、この10年ほどで大きく変わった。かつては「危ないから」と敬遠され日常の足として定着していなかったが、ソウル市の公共自転車「タルンイ(따릉이)」が普及し、地下鉄駅からの短い距離を埋める移動手段として使われるようになった。外国人観光客も利用でき、アプリは日本語に対応している。ここでは料金と使い方、そして知っておきたいソウル特有の事情を整理する。
タルンイの料金…
社会保険と福利厚生
国民年金、健康保険、雇用保険、産業災害補償保険を合わせて4大保険と読んでいます。[国民年金]年金保険料は基準月額の9%を雇用主と加入者が折半します。日本と韓国は社会保障協定があり、日本の年金に加入していると、最大5年まで加入免除を受けることもできます。[健康保険]国民健康保険料は所得の5.64%を雇用主と被用者が折半で、老人長期療養保険料として、国民年金保険料の13.1%を雇用主と被用者が折半します。組合保険など海外で発生した医療費を全額支援する制度があれば、適用除外の申請もできます。[雇用保険]保険料は業種によって、報酬月額の1.35〜1.95%です。被用者が0.55で残りが会社負担です。外国人の加入は任意です。[産業災害補償保険]日本の労災に相当します。保険料は報酬月額の0.7〜36%で全額会社負担です。加入や脱退などの手続きは、社員数が多いと専門家に依頼することになりますが、会計事務所でも代行してくれます。ところで、福利厚生を重視する人は、日本人17%で、韓国人52%というアンケート結果があります。通勤交通費に非課税枠はなく所得になります。一方、会社が負担する昼食費は月10万Wまで非課税で、現物支給の会社もありますが、給与のうち10万Wを昼食費として計上する会社が多いようです。住居手当や家族手当は、日本と同様の考え方で良いでしょう。子女の教育費を全額支援する財閥系企業があります。私立学校の教育費は高額で、同じような要求をしてくるケースもあります。秋夕や旧正月には手当を支給する習慣があります。現物支給が多く、秋夕や旧正月の頃になると、会社から支給された品を抱えた人を見かけます。金銭や商品券で済ます会社もあり、給与が年俸制の会社は、年俸を給与、賞与、秋夕•旧正月手当に分けて支給します。韓国の産業安全保健法では、事務職は2年に一度、技能職などは年1回、会社が健康診断を受けさせる義務あります。また、会社員の44%が職場で鬱を抱えているというアンケート結果もあります。鬱はモチベーションの低下を招き、退職にもつながりかねません。…

韓国の公共交通・料金ガイド〜交通カードと乗り換え割引
韓国の公共交通は交通カード1枚で地下鉄・バスを乗り継げるのが最大の特徴だ。ソウルの地下鉄はカード利用で基本1,550ウォン、市内バスは1,500ウォンで、乗り換えは一定回数まで追加運賃がかからない。ここでは運賃の目安、乗り換え割引の仕組み、定期券の選択肢を整理する。
まずは交通カードを用意する
韓国で公共交通を使うなら、交通カード(T-moneyなど)の入手が最初の一歩になる。コンビニや地下鉄駅の窓口・自動販売機で購入でき、現金でチャージして使う。
紙の乗車券では地下鉄とバスの乗り換え割引が適用されない。乗り換えるたびに基本運賃が再び発生するため、2区間以上乗るなら交通カードのほうが確実に安くなる。近年はスマートフォンの交通カード機能やクレジットカードのタッチ決済に対応する路線も広がっているが、対応状況は事業者によって差があるので、滞在中の移動が多いなら実体カードを1枚持っておくと安心だ。
運賃の目安(2026年8月時点)
・ソウルの地下鉄:カード利用で基本1,550ウォン(10km以下)。2025年6月28日から適用
・ソウルの市内バス:カード利用で基本1,500ウォン
・いずれも距離に応じて加算される区間制
地下鉄・バスとも運賃は改定されることがあるため、長期滞在の予算を組む際は最新の告知を確認したい。都市によって運賃体系や事業者が異なる点にも注意が必要だ。
乗り換え割引のしくみ
首都圏では地下鉄とバスが統合された運賃体系になっており、交通カードで乗り継げば最大4回まで追加の基本運賃がかからない。5回目の乗り換えから新たに基本運賃が発生する。
重要なのは降車時も必ずカードをタッチすることだ。バスで降車時のタッチを忘れると乗り換え割引が適用されず、次の乗車で基本運賃を取られることになる。地下鉄の改札を出るときも同様で、乗車記録が正しく残っていることが割引の前提になる。
定期券という選択肢:気候同行カード
ソウル市内での移動が多いなら、定額制の「気候同行カード(기후동행카드)」という選択肢がある。1回のチャージで、選んだ期間中はソウル地域の地下鉄・バスに加え、公共自転車のタルンイやハンガンバスも乗り放題になる定期券だ。
価格は62,000ウォン券(地下鉄・バス)と65,000ウォン券(+タルンイ)の2種類で、青少年・青年向けの割引価格も設定されている。利用できるのはソウル地域が中心なので、京畿道方面への通勤が多い場合は対象範囲を先に確認しておきたい。毎日のように市内を移動するなら、都度払いより安く収まる計算になる。
都市間の移動:KTXと高速バス
地方都市への移動は高速鉄道KTXと高速バスが二本柱になる。KTXはソウル-釜山を最短2時間台で結び、高速バスは本数が多く運賃が抑えられているのが強みだ。
ソウルには高速バスターミナル、南部ターミナル、東ソウルバスターミナルがあり、行き先によって発着ターミナルが異なる。同じ目的地でも複数のターミナルから便が出ていることがあるため、予約時に発着地を取り違えないよう確認したい。鉄道が通っていない地域へは、バスが実質的に唯一の公共交通手段になることも多い。
地下鉄で迷わないために
ソウルの地下鉄には、路線によって左側通行と右側通行が混在しているという特徴がある。対面式ホームの駅では改札口が方向別に分かれていることが多く、間違えると一度改札を出て入り直すことになる。この見分け方は別記事で詳しく扱っている。
よくある質問
Q.…
