韓国で働く日本人のためのビジネスマナー〜名刺・席次・会食
韓国で働く日本人が迷いやすいのが、名刺交換・席次・会食といった場面のマナーだ。韓国式と日本式は似ている部分が多く、決定的に違う部分もある。ここでは日本式の基本作法を確認したうえで、韓国の商習慣で押さえておきたい点を整理する。
基本の考え方:韓国式か日本式か
「韓国だから韓国式」という考え方には一理あるが、マナーは時代とともに変わり、世代によっても異なる。統一された韓国式マナーというものが明確にあるわけではない。
韓国式に自信がないときは、あやふやな韓国式より、正しい日本式のほうが好感を持たれることが多い。丁寧に扱おうとしている姿勢は、作法の細部を超えて伝わるからだ。まずは日本式を正しく身につけ、そのうえで韓国特有の慣習を知っておく、という順序が現実的だろう。
名刺交換
名刺交換は起立が基本だ。物理的に立つのが難しいときは「着席で失礼します」と断れば着座のままでも構わない。名刺入れを盆に見立てて使う。
・原則:自分の名刺は相手が読みやすい向きにして両手で差し出す。両手で名刺入れ(盆)を持ち、相手の名刺を両手で受け取る
・略式:自分の名刺を右手で出し、相手の名刺を名刺入れの上で受け取る
マナー本には「相手の名刺を両手で受け取り、自分の名刺は両手で差し出す」と書かれていることが多いが、テーブルがない場面では現実的でない。会議室であれば自分の名刺を先にテーブルに置き、相手の名刺を受け取ってから自分の名刺を差し出すこともできるが、実際には双方が自分の名刺を手にしているケースが一般的だ。
受け取ったら「頂戴いたします」と確認する。日本人は苗字だけを名乗ることが多く、漢字の読み方が分からなければその場で尋ねてよい。その場で訊くのは失礼にあたらず、むしろ間違えたり後から訊くほうが失礼になる。

会議や面談の席では、商談が終わるまで相手の名刺を名刺入れの上に載せてテーブルに置いておく。相手が複数のときは座っている順番に並べ、最上位者の名刺を名刺入れの上に載せる。商談が終わったら名刺入れにしまうが、この動作は面談終了の合図にもなるため、話の途中でしまわないよう注意したい。
韓国の名刺交換で押さえておきたいこと
韓国でも名刺は両手で扱うのが基本で、この点は日本と共通している。違いが出るのは順序と扱いだ。
韓国では役職が下の側から先に差し出すのが一般的で、「私からご挨拶します」という意思表示になる。また、受け取った名刺をすぐに名刺入れへしまう動作は「関心がない」という印象を与えかねないため、面談が終わるまでテーブルの上に置いておくのが原則だ。この点は日本式とほぼ同じ感覚で臨んで問題ない。
お辞儀
・会釈 15度:一般的な場面
・敬礼 30度:目上の人に対して、謝罪の場面
・最敬礼 45度:特に目上の人、重大な謝罪、葬儀など
・目礼:親しい相手や対等な関係のときに限り許容
手の位置は、男性はズボンの縫い目に沿わせ、女性は前で交差させる。女性でもパンツスタイルのときは男性と同様でも構わない。
「常に30〜45度」と教えるマナー講師もいるが、相手が目下や対等の場合、必要以上に深いお辞儀はかえって不自然になる。場面に応じて使い分けたい。
来客時の席次(応接室)
応接室はテーブルを挟んで2〜3人掛けソファ1脚と1人掛けソファ2脚という構成が一般的だ。原則は次の3点になる。
(1) 訪問客は2〜3人掛けソファに座る
(2) 部屋の入口から遠い席が訪問客。訪問客が複数のときは奥から上位者→下位者の順
(3) 電話機は迎える側が取りやすい位置に置く

最近は応接室を置かずに会議室で面談したり、ソファではなく1人掛けの椅子を用意する企業が増えている。その場合は(2)入口からの遠近と(3)電話機の位置で判断する。
例外もある。ある企業では、入口側に3人掛けソファと電話機を配置していた。理由を訊くと、入口側に座れば窓の外の景色が見えるが、窓を背にした奥側では壁しか見えないため、眺望を優先して原則と逆にしたという。このように原則と異なる配置にする場合は、案内するスタッフが着座位置を示せば訪問客が迷わずに済む。
席次を社内で決めて共有しておくと、コーヒーや茶菓も迷うことなく上位者から順に出せる。接客が専門ではないスタッフの負担を減らす効果も大きい。
韓国での上座の考え方
韓国でも上座・下座の感覚は明確にある。基本は年長者・最高位者が上座で、これは日本と共通だ。
ただし判断基準がやや実利的で、スクリーンのある会議室では画面が最も見やすい席、眺望のある部屋では景色が見える席が上座とされることがある。入口からの遠近だけで機械的に決まるわけではない。招かれた側であれば、ホストの案内に従うのが最も確実だろう。
自動車とエレベーターの席次
タクシー・専用運転手つきの車:運転手の後ろ → 助手席の後ろ → 真ん中 → 助手席
自家用車(同乗者が運転する場合):助手席 → 運転手の後ろ → 助手席の後ろ → 真ん中
エレベーター:下位者が操作盤の位置に立ち、最上位者は操作盤の後ろに立つ。担当者(複数いる場合は最下位者)が先導してボタンを押す。ドアが開いたらボタンを押すかドアを押さえ、全員が乗り終えたのを確認して最後に乗る。降りる階でも開くボタンを押さえ、全員が降りたのを確認して最後に降りる。
会食の席で
日本から出張してきたVIPや、日本へ出張するスタッフに上長が「無礼講で」と言うことがある。無礼講は韓国にはない日本特有の文化なので、韓国人スタッフに説明が必要になる場面がある。
もともとは、神に供えた酒を身分の高い順にいただく「礼講」という祭事があり、正式な宴席では料理の順序、酌の順番、席次まで作法が定まっていた。その作法にとらわれず酌や会話をする二次会的な宴席が無礼講だ。
ここで誤解されやすいのが、無礼講で「無くなる」のは何かという点だ。料理の順序や酌の序列といった飲食にまつわる作法は緩むが、席次や言葉遣いといった長幼の序はしきたり通りである。上位者が自席を離れて社員の間に入っていく、手酌をしてもよい、自分の席の酒を持って行ってよい——変わるのはその範囲で、羽目を外してよいという意味ではない。
韓国の酒席で気をつけたいこと
韓国の会食には日本とよく似た作法と、より厳格な部分がある。
・自分の杯は自分で満たさない。相手の杯が空いたら先に注ぐ
・瓶は両手で持ち、ラベルが見えるように注ぐ
・相手が座っているときは、立って注ぐのが丁寧とされる
・目上の人の前で飲むときは、体をやや横に向けて口をつける習慣がある
また、韓国の職場では会食が人間関係づくりの場と位置づけられることが多く、残業のあとにそのまま会食へ、という流れも珍しくない。無理をする必要はないが、そうした位置づけであることを知っておくと戸惑いが減る。
よくある質問
Q. 韓国では韓国式で通すべき?
A. 統一された韓国式マナーが明確にあるわけではない。あやふやな韓国式より正しい日本式のほうが好感を持たれることが多い。
Q. 名刺はどちらから先に出す?
A. 韓国では役職が下の側から先に差し出すのが一般的だ。「私からご挨拶します」という意思表示になる。
Q. 受け取った名刺はすぐしまってよい?
A. よくない。面談が終わるまでテーブルの上に置いておく。すぐにしまうと関心がないという印象を与える。日本でも名刺入れにしまう動作は面談終了の合図になる。
Q. 応接室で上座はどこ?
A. 原則は入口から遠い席。ただし韓国では、スクリーンが見やすい席や眺望のよい席が上座とされることもある。招かれた側はホストの案内に従うのが確実だ。
Q. 「無礼講」は韓国語で説明できる?
A. 韓国にはない日本特有の概念のため、説明が必要になる。緩むのは飲食の作法だけで、席次や言葉遣いは通常どおりという点を補足すると誤解が生じにくい。
Q. お酌で気をつけることは?
A. 自分の杯は自分で満たさない、瓶は両手でラベルが見えるように持つ、相手が座っていれば立って注ぐ。目上の人の前で飲むときは体をやや横に向ける習慣がある。



