韓国の酒事情 ── ビール・焼酎・日本酒の銘柄と価格のしくみ
韓国の酒事情は、日本とかなり違う。ビールも焼酎も「1メーカー1銘柄」が基本で選び方がシンプルな一方、日本酒は日本の3〜5倍という高値がつく。その背景には、韓国独特の酒税と流通構造がある。ビール・焼酎・日本酒それぞれの事情をまとめて解説する。
韓国のビール
韓国を代表するビールは、Cass(カス)、Hite(ハイト)、Terra(テラ)、Kelly(ケリー)、Kloud(クラウド)など。長く首位を守っているのはCassで、2026年第1四半期の家庭用市場では48%前後のシェアを占め、2012年以来13年以上トップを続けている。ハイトジンロのTerraは10%前後、2023年に投入されたKellyは販売量を伸ばしつつある。
「韓国のビールは物足りない」と言われることがあるが、これには理由がある。韓国の酒税法上のビールは、日本でいう発泡酒とほぼ同じ基準なのだ。CassやHiteは日本の発泡酒に近く、Kloudは韓国ビールのなかでは比較的日本のビールに近い味とされ、韓国ビールより高いが日本のビールよりは安いため、代用品として選ぶ人も少なくない。
選び方は日本より単純だ。飲食店やコンビニでは1社1銘柄が基本で、銘柄を選ぶことがそのままメーカーを選ぶことになる。輸入ビールも流通しており、飲食店では韓国ビールの2倍前後の価格になるが、スーパーでまとめ買いすればそれほど割高ではない。

韓国の焼酎(ソジュ)
居酒屋で緑の小瓶が並ぶ光景は韓国ならではだ。チャミスル(참이슬)とチョウムチョロン(처음처럼)が二大銘柄で、健康診断の問診票でも飲酒量が「ソジュ○本」で問われるほど生活に根づいている。
価格は手頃で、コンビニでは360ml瓶が1,900ウォン前後。飲食店では5,000〜7,000ウォン程度が一般的だ。2024年には出荷価格の引き下げがあり、小売価格も下がった。
もっとも、この価格には不思議な点もある。韓国では焼酎など蒸留酒にかかる酒税等が出荷額の約80%と高く、そこから流通コスト、瓶代、ラベル代、広告費などを差し引くと、原料に回せる額はごくわずかになる計算だ。また韓国では食品・飲料の原材料表示が義務づけられているが、緑瓶のソジュには原材料の表示が見当たらない。
プレミアム焼酎という選択肢
百貨店や少し高級な飲食店では、白い小瓶に入った焼酎も見かける。「ファヨ(화요)」などがそれで、アルコール度数が低いものは白瓶、高いものは黒瓶で区別される。主原料は米で、チャミスルやチョウムチョロンより高価だが、日本の焼酎より安く味も遜色ないため、日本の焼酎の代わりとして選びやすい。

韓国で日本酒が高い理由
韓国では2007年頃から日本酒の輸入が急増し、その多くが日本料理店で消費されている。だが市場価格は日本の3〜5倍。輸入業者は「税金が高い」と説明することが多いが、関税と酒税等を合わせた実効税率は約53%程度(VAT除く)で、税金と輸送費だけを考えれば日本の市場価格の2倍ほどで売れる計算になる。
高値の最大の要因は流通だ。日本酒は蔵元から輸出会社、輸入会社、問屋を経て小売店や飲食店に届くが、各段階のマージンが高い。韓国では酒類の輸入会社や問屋は専業が義務づけられ、配送は専用車両、業者間取引は専用カード決済と、そもそも高コストな仕組みになっている。加えて問屋の力が強く、価格が崩れにくい。
参考までに、ワインは「蔵元>輸入会社>飲食店・小売店」と流通段階が少なく、内外価格差も小さい。実際、韓国のワイン市場は拡大している。日本酒も価格が2倍以内に収まれば、もっと数量が出るとみられる。
酒類流通を縛る「保証金」の構造
韓国の店舗賃貸では、保証金(家主に預ける、日本の敷金に相当)と権利金(前の賃借人に払う、日本の居抜き料に近いが設備を引き継がなくても発生する)が高額になる。
ここに酒問屋が入り込む。問屋が保証金や冷蔵庫などの什器・備品を貸し付け、その代わりに店はすべての酒をその問屋から仕入れるという関係ができる。他のルートで仕入れれば貸付金の一括返済や備品の買い取りを求められるため、店は問屋が勧める酒を扱わざるを得ない。
酒問屋は地域ごとに数が決められており、地域によってはほぼ独占的に扱える。貸し付けた店の酒を一手に握れるため、強気の価格設定が可能になる。この商習慣もまた、日本酒が高くなる要因のひとつだ。
日本酒が「選ばれにくい」もうひとつの理由
価格以外にも壁がある。韓国のビールや焼酎は1メーカー1銘柄でシンプルなのに対し、日本酒は蔵元が1000を超え、銘柄は15000以上。同じ銘柄でも大吟醸・吟醸・純米・本醸造などに分かれる。
ワインなら、ある店で気に入った産地の銘柄を別の店で探すことができるが、日本酒は店ごとに扱う銘柄が異なるため、気に入った純米酒を他店で頼めないことが多い。高価な日本酒をいろいろ試すのは簡単ではない。
さらに、注文する側にも売る側にも難しさがある。韓国に入っている日本酒は100銘柄をはるかに超えるが、価格が高いため自店の日本酒を口にしたことがない店員が少なくない。日本料理店ではオーナーが試飲して仕入れを決める一方、接客する店員は飲んだことがなく、ラベルは毛筆の漢字で読めないことも多い。結果として、客は選べず店員も勧められず、値段で選ぶことになりがちだ。
正しく管理された地酒に不味い酒はなく、あるのは好みの差だけだ。接客する店員に味わってもらえば、その人が気に入った銘柄を勧めるようになる。
よくある質問
Q. 韓国のビールが薄いと言われるのはなぜ?
A. 韓国の酒税法上のビールは日本の発泡酒とほぼ同じ基準のため。日本のビールに近い味を求めるならKloudや輸入ビールという選択肢がある。
Q. ソジュの値段は?
A. コンビニで360ml瓶が1,900ウォン前後、飲食店では5,000〜7,000ウォン程度が目安。
Q. なぜ韓国の日本酒は高い?
A. 税金(実効税率約53%)よりも流通構造の影響が大きい。専業義務・専用車両・専用決済といった高コストな仕組みと、問屋の強い価格支配力が要因。
Q. 日本の焼酎に近いものはある?
A. 米を主原料とするファヨ(화요)などのプレミアム焼酎が、味も価格も日本の焼酎の代わりになりやすい。


