韓国の人事労務 ── 日本と違って実務が止まる7つのポイント(2026年版)
韓国に拠点を置く日本企業の人事担当者が実務でつまずくのは、韓国の労働法を知らないからではありません。「日本と同じだろう」と考えた部分が、実際には違っているからです。
韓国の労働法は日本より使用者側の裁量が狭い領域が複数あり、しかも違反の効果が「無効」や「みなし」という形で強く働きます。後から気づいても取り返しがつかない類の差です。2026年時点の制度で、実務が止まりやすい7点を整理します。

① 退職金は「制度」ではなく「法律上の義務」
日本では退職金は任意の制度で、就業規則に定めなければ支払義務は生じません。韓国では勤労者退職給与保障法により、支払いが法定義務です。
- 対象:継続勤務1年以上、かつ4週平均で週15時間以上の労働者
- 金額:継続勤務期間1年につき30日分以上の平均賃金
- 平均賃金:算定事由発生日以前3か月間の賃金総額 ÷ その期間の総日数。これが通常賃金より少ない場合は通常賃金を用います
- 支払期限:退職後14日以内
⚠️ 継続勤務期間の数え方に注意です。試用期間は含まれます。有期契約を更新してきた場合も全期間を通算します。「契約を切り替えたので勤続はリセット」という処理は通りません。
② 有期契約は2年で無期に転換される
日本の無期転換ルールは通算5年ですが、韓国は2年です。期間制労働者を2年を超えて使用した場合、期間の定めのない労働契約を締結した労働者とみなされます。
「みなす」規定なので、当事者の意思や契約書の文言では覆りません。2年目の後半に判断していては遅いため、契約開始時点で運用方針を決めておく必要があります。
③ 解雇通知は書面でなければ無効
韓国の勤労基準法は、解雇に正当な理由を要求します。加えて手続きの要件があります。
- 書面通知が必須 — 解雇の事由と時期を書面で通知しなければ効力が生じません。口頭・メール・メッセンジャーでの通告は無効と判断されうる領域です
- 30日前の予告 — または30日分以上の通常賃金(解雇予告手当)の支払い
📌 予告手当を払えば自由に解雇できる、という理解は誤りです。予告手当は手続要件であって、正当な理由の代わりにはなりません。
④ 年次有給休暇の付与が早い
日本では入社6か月後に10日付与が原則ですが、韓国は次のとおりです。
- 勤続1年未満:1か月皆勤ごとに1日
- 勤続1年以上:年15日
- 勤続3年以上:2年ごとに1日加算(上限25日)
初年度から実質的に休暇が発生するため、日本本社の基準でシフトや要員計画を組むと不足します。
⑤ 週52時間 ── 上限は「40+12」
法定労働時間は週40時間で、延長勤労は週12時間まで。合計52時間が上限です。日本の36協定のように特別条項で年間の枠を広げる仕組みとは構造が異なります。
また、労働時間の実態と賃金設計が合っていないケースが最も紛争になりやすい部分です。後述の賃金未払い規制強化と合わせて確認してください。
⑥ 「常時5人未満」で適用が変わる
日本にはない概念です。韓国では常時使用する労働者が5人未満の事業場について、勤労基準法の一部規定が適用除外となります。解雇制限、年次有給休暇、時間外・夜間・休日の割増賃金などが該当します。
駐在員事務所や小規模拠点では人数が5人前後を行き来することがあり、そのつど適用関係が変わります。拠点設立時に確認すべき点です。
⑦ 2026年の制度変更
2026年に入って複数の変更が施行されています。
- 最低賃金 時給10,320ウォン(2026年1月1日〜)。前年比290ウォン・2.9%の引き上げで、月額換算2,156,880ウォン(週40時間・月209時間基準)。業種の区分なく全事業場に同一適用されます
- 賃金未払いの遅延利息 — 従来は退職者のみが対象でしたが、在職者にも年20%の遅延利息が適用されるようになりました
- いわゆる「黄色い封筒法」(労働組合及び労働関係調整法 第2条・第3条改正)が2026年3月10日施行。使用者の範囲が拡大され、元請が実質的な支配力を持つ場合に使用者と認められうる方向です。労働争議の対象拡大、損害賠償請求の制限も含まれます
- 代支給金の回収制度(改正賃金債権保障法、2026年5月12日施行)。国が立て替えた未払い賃金の回収手続きが民事執行から国税滞納処分の手続きへ移行し、強制徴収が可能になりました。あわせて請負事業では、賃金を支払わなかった事業主だけでなく直上受給人・上位受給人にも弁済金の連帯責任が及びます。協力会社の賃金未払いが発注者側の負担になりうるという点で、拠点運営に直接関わる変更です
- 「勤労者の日」の名称が「労働節」に変更。社内規程の用語整備が必要です

💡 試用期間については、試用開始日から3か月以内に限り最低賃金額の10%を減額できます。ただし契約期間が1年未満の場合は減額できません。
日本人駐在員・現地採用者本人にとって
勤労基準法第6条は、使用者が国籍を理由に労働条件について差別的な待遇をしてはならないと定めています。したがって外国人労働者にも勤労基準法が適用されます。退職金についても、要件(1年以上・週15時間以上)を満たせば日本人にも発生します。
⚠️ 日本本社との二重契約や出向の形態によって扱いが変わるため、着任前に契約形態を確認しておくことをおすすめします。
実務チェックリスト
- ☐ 労働契約書を書面で作成し、賃金・労働時間・休日・年次休暇を明示しているか
- ☐ 就業規則が実際の運用と一致しているか
- ☐ 有期契約者の通算期間を管理しているか(2年ルール)
- ☐ 退職金の引当・積立を行っているか
- ☐ 常時労働者数が5人を跨いでいないか
- ☐ 最低賃金改定に伴う基本給の再調整を行ったか
- ☐ 協力会社の賃金支払い状況を把握しているか(代支給金の連帯責任)
- ☐ 職場内いじめ防止に関する社内手続を整備しているか
個別の論点については、退職金と積立と採用と契約社員・派遣社員でも扱っています。拠点の設立手続きは韓国で会社を設立する方法【2026年版】― 外国人投資企業の登録から事業者登録・D-8ビザまで、駐在員のビザは韓国の就労・駐在員ビザ完全ガイド ― D-7(企業内転勤)・D-8(企業投資)・D-9(貿易経営)【2026年版】、赴任者の住居は韓国の住居・家探し完全ガイド ― チョンセ(伝貰)とウォルセ(月貰)、契約から保証金を守る方法まで【2026年版】をご覧ください。
よくある質問
Q. 日本本社に退職金制度がなければ、韓国拠点でも不要ですか。
A. 不要にはなりません。韓国では法定義務であり、本社の制度の有無とは無関係です。要件を満たす労働者に支払義務が生じます。
Q. 有期契約を一度終了させ、間を空けて再契約すれば通算は切れますか。
A. 実態として継続していると判断されれば通算されます。形式的な空白期間だけで判断されるものではないため、個別の事情については専門家に確認してください。
Q. 解雇予告手当を支払えば解雇できますか。
A. できません。予告手当は手続上の要件であり、解雇の正当な理由とは別の論点です。
Q. 日本人の現地採用者にも退職金は発生しますか。
A. 国籍による労働条件の差別は禁じられており、要件を満たせば発生します。
Q. 最低賃金は業種によって違いますか。
A. 2026年適用の最低賃金は業種の区分なく全事業場に同一適用されます。
Q. 協力会社の賃金未払いが自社の負担になることがありますか。
A. 2026年5月12日施行の改正により、請負事業では直上受給人・上位受給人にも代支給金の弁済責任が及びます。委託先の支払い状況を把握しておくことが重要になりました。



