私儀(わたくしぎ)とは ― 挨拶状での意味と書き方、「私議」との違い【2026年版】
日系企業の転任・退職の挨拶状に出てくる「私儀」。読みはわたくしぎで、「私に関することですが」という意味の前置きである。本文で自分のことを述べる前に置き、へりくだる働きをする。よく似た「私議」は別の語であり、挨拶状に用いるのは誤りである。
「私儀」と「私議」── 正しいのは「私儀」
音が同じで字が違うため、入れ替わりやすい。意味はまったく別である。
- 私儀(わたくしぎ) ── 「私に関しましては」。挨拶状・辞令で使う正しい表記
- 私議(しぎ) ── 「個人的な意見」「かげで批評すること」。挨拶状では誤り
分かれ目は「儀」と「議」である。「儀」には「~のこと」という用法があり、「本人儀」「父儀」のように使う。一方の「議」は議論・意見の意で、自分を指す前置きにはならない。
手元の挨拶状で見かけた語であれば、それは「私儀」だと考えてよい。
どこに書くか ── 位置そのものに意味がある
「私儀」「私こと」は自分を指す語なので、置く位置が決まっている。
- 縦書き ── 行の中ほどより下
- 横書き ── 行の中ほどより右
低い位置・後ろの位置に置くことが、そのままへりくだりを表す。逆に相手の会社名や氏名は中ほどより上(横書きなら左)に置く。文字の大小ではなく配置で敬意を示すのが、この形式の考え方である。
挨拶状の基本形
一般的な流れは次のとおりである。
- 頭語 ── 拝啓
- 時候の挨拶 ── ○○の候 貴社におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます
- 起こし ── さて私こと(今般私儀)
- 本文
- 結語 ── 敬具
- 年月・差出人
「さて今般私儀」だけで一行になる形もよく見かけるが、収まりが気になる場合は時候の挨拶を短くして続ける。
例1 ○○の候 貴社ますますご健勝のこととお慶び申し上げます
さて今般私儀
本文~
例2 ○○の候 貴社ますますご健勝のことと存じます さて今般私儀
本文~
例1は「さて今般私儀」が独立し、例2はさりげなくまとめている。どちらでも誤りではない。
句読点を打たない
格式を重んじる文書では句読点を用いない。理由は、句読点が読み手を助けるために付すものだからである。読み方を示すことは相手を下に見る形になる、という考え方から、挨拶状では省く。
同じ理由で一字下げも行わない。
くだけた挨拶状や、内容が多く誤解を招きかねない文では句読点を打つ例もある。ただし感謝状・表彰状では認められない。
句読点を使わない代わりに、空白(スペース)と改行で区切りを示す。上の例で語と語の間が空いているのはそのためである。
日付と年号
横書きの正式な表記は算用数字で「2026年」。縦書きでは漢数字を用いる。日付の漢数字表記には慶事と弔事で書き分ける慣習があるため、弔事の文書では個別に確認したい。
年号については決まりがある。主文は発信する国の年号を用い、翻訳文など副文で相手方の年号を使うのが公式である。日本は元号、韓国は西暦を使うため、在韓日系企業ではこの点が実務上の判断になる。
漢字と平仮名の使い分け
厳密な決まりはない。誤字さえなければ差し支えない。
常用漢字かどうかを基準にする人もいるが、こだわる必要はない。御礼=お礼、宜しく=よろしくのように、好みや字数の収まりで選んでよい。
在韓日系企業の挨拶状 ── 韓国語との違い
在韓日系企業では、挨拶状を日本語と韓国語の2か国語で作成するのが一般的である。ところが韓国語の側にはここまで細かい決まりがない。
実は日本語でも、厳格なルールがあるのは縦書きである。横書きに明確な決まりはなく、縦書きの慣習を当てはめて運用しているにすぎない。韓国の古文書も縦書きが多く、縦書きの時代には相応の作法があったと考えられる。横書きが主流になる過程で簡素化されたのかもしれない。
実務上は、日本語側だけルールに合わせ、韓国語側は自然な韓国語で書くという形に落ち着くことが多い。
よくある質問
Q. 「私儀」は何と読みますか。
A. わたくしぎと読みます。「しぎ」と読まれることもありますが、挨拶状では「わたくしぎ」が一般的です。
Q. 「私議」と書いてしまいました。誤りですか。
A. 挨拶状であれば誤りです。正しくは「私儀」です。「私議」は「個人的な意見」「かげで批評すること」を指す別の語です。
Q. 「私こと」と「私儀」はどう違いますか。
A. 意味は同じで、どちらも自分に関する前置きです。「さて私こと」「さて今般私儀」のように使い、「私儀」のほうが硬い印象になります。
Q. どこに書けばよいですか。
A. 縦書きなら中ほどより下、横書きなら中ほどより右に置きます。低い位置・後ろの位置に置くことがへりくだりを表します。
Q. 句読点は打ちますか。
A. 打ちません。一字下げも行いません。感謝状・表彰状ではとくに厳格です。
