韓国の伝貰(チョンセ)詐欺 ― 手口と、外国人が保証金を守るために取る手続き【2026年版】
韓国の賃貸で日本人がもっとも警戒すべきなのが保証金(보증금)の未返還である。チョンセ(伝貰)は保証金が数千万ウォンから数億ウォンに達するため、返ってこなければ被害額がそのまま生活基盤を崩す。ここでは詐欺の手口と、外国人が実際に取れる手続きを整理する。
なぜチョンセで詐欺が起きるのか
チョンセは、家賃を払う代わりにまとまった保証金を預け、退去時に全額返してもらう仕組みである。貸主はその資金を運用し、次の借主から受け取る保証金で前の借主に返す ── この循環が前提になっている。
したがって物件価格が下がる、あるいは次の借主が決まらないと、返す原資がなくなる。悪意がなくても返せなくなる「カンコン(깡통)チョンセ」= 保証金が物件価格に近い、あるいは上回る状態が生まれるのはこのためだ。ここに意図的な詐欺が重なる。
典型的な手口
- カンコン(깡통)チョンセ ── 保証金が物件の実勢価格に迫る。競売になっても保証金が回収できない
- 二重契約 ── 同一物件で複数の借主と契約する。仲介人が関与している場合がある
- 名義と実権者の乖離 ── 登記上の所有者と実際に賃料を受け取る者が違う。代理人と称する者が契約する
- 先順位の担保が隠されている ── 契約時点で銀行の抵当権が設定済みで、競売時に借主の順位が後ろになる
- 信託されている物件 ── 所有権が信託会社にあり、登記上の所有者に賃貸権限がない
契約前に必ず確認すること
登記事項証明書(등기부등본)を自分で取る
不動産会社に見せてもらうだけでなく、契約直前と入金直前にもう一度自分で取得する。インターネット登記所で取得できる。確認するのは次の点である。
- 所有者が契約相手と一致するか(甲区)
- 抵当権・仮差押えなどの担保がついていないか、金額はいくらか(乙区)
- 信託登記がないか ── ある場合、登記上の所有者に賃貸権限がないことがある
担保がある場合は、その金額と自分の保証金の合計が物件価格を超えていないかを見る。超えていれば競売時に回収できない可能性が高い。
相場と比べる
保証金が周辺の実勢価格に対して不自然に高い物件は避ける。国土交通部の実取引価格公開システムや、政府が提供する「アンシムチョンセ(안심전세)アプリ」で周辺の取引価格と保証金の水準を確認できる。
契約の相手を確認する
代理人が出てくる場合は委任状と印鑑証明を確認する。所有者本人と連絡が取れるかどうかも重要である。公認仲介士事務所であることを登録番号で確認し、仲介人が保証保険に加入しているかも見ておきたい。
【最重要】外国人が保証金を守るために取る手続き
日本人にとってここがもっとも重要である。韓国人向けの解説をそのまま読むと手続きの名称が違う。
① 対抗力 ── 外国人は「滞在地変更申告」が転入届にあたる
韓国人は住民登録(転入届)で対抗力を得るが、外国人は住民登録ができない。代わりに出入国管理法上の外国人登録・滞在地変更申告(체류지 변경신고)を行う。
大法院は2016年10月13日の判決で、外国人が行った滞在地変更申告について、住宅賃貸借保護法上の転入届と同一に扱い、対抗力を認めている。つまり手続きさえ取れば、韓国人と同じ保護を受けられる。
- 期限 ── 転居から15日以内
- 窓口 ── 新住所地の市・郡・区、邑・面・洞の行政福祉センター(住民センター)、または地方出入国・外国人官署
入居(引き渡し)と申告の両方がそろった翌日から対抗力が発生する。引っ越したのに申告を後回しにすると、その空白期間は保護されない。入居日に申告するのが原則である。
② 確定日付(확정일자)── 優先弁済権を得る
対抗力だけでは、競売になったときの配当の順位が確保できない。契約書に確定日付を受けることで優先弁済権が生じる。
- インターネット登記所の電子確定日付、または住民センターの窓口
- 手数料は500ウォン程度
対抗力と確定日付はセットで意味を持つ。片方だけでは不十分である。
③ 保証金返還保証(전세보증금 반환보증)に加入する
貸主が返せなくなったとき、保証機関が先に借主へ支払い、あとで貸主に請求する制度である。HUG(住宅都市保証公社)、HF、SGI が扱っている。
- 保証限度 ── HUG は首都圏7億ウォン、その他の地域5億ウォンまで
- 加入可否 ── 公示価格にチョンセ価率90%を適用して算出される。保証金が物件価格に対して高すぎると加入できない
- 保証料率 ── 年0.097%〜0.211%程度(住宅の種類・保証金額・期間で変動)
保証事故の急増を受けて審査は年々厳しくなっている。逆に言えば、加入できない物件は「保証機関がリスクありと判断した物件」である。加入可否そのものが物件の安全性を測る指標になる。契約前に加入できるかを確認しておきたい。
それでも被害に遭ったら
- 賃借権登記命令 ── 契約が終わっても保証金が返らない場合、退去しても対抗力と優先弁済権を維持するための登記を裁判所に申し立てる。これをせずに引っ越すと権利を失う
- 保証金返還請求訴訟・支払命令の申立て
- 被害相談 ── 전세피해지원센터など公的な相談窓口がある。日本語対応は限られるため、日本語の通じる不動産会社や専門家を通すのが現実的
退去を急ぐと権利を失うことがある。動く前に相談するのが鉄則である。
よくある質問
Q. ウォルセ(月貰)なら安全ですか。
A. 保証金の額が小さいぶん被害額は抑えられますが、ゼロではありません。ウォルセでも保証金は預けるため、対抗力と確定日付は同じように必要です。
Q. 会社が契約する場合も自分で手続きが要りますか。
A. 法人名義の契約では、個人が対抗力を取ることはできません。会社の管理方針に従うことになります。本人名義かどうかは契約前に確認してください。詳しくは韓国赴任・駐在員の家探しをご覧ください。
Q. 短期滞在でも申告は必要ですか。
A. 保証金を預けて住む以上、期間の長短にかかわらず手続きの意味は同じです。滞在地変更申告は出入国管理法上の義務でもあります。
Q. 日本語で相談できる不動産会社はありますか。
A. あります。日本語が通じる不動産会社にまとめています。契約書の内容を母語で確認できることは、この分野では実利があります。
・韓国の住居・家探し完全ガイド ― チョンセ・ウォルセと保証金を守る手続き
・韓国赴任・駐在員の家探し ― 会社の住居規定と不動産会社の使い分け
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