韓国の「甲乙」構造とB2B取引 ── 決済慣行の違いと日系企業の注意点
韓国のビジネスでは「甲(カプ)」「乙(ウル)」という言葉が日常的に使われる。契約書で発注者を甲、受注者を乙と表記する慣行から来た言葉だが、単なる表記を超えて取引上の力関係を指す言葉として定着している。在韓日系企業が知っておきたい韓国のB2B取引構造と、日本との商習慣の違いを整理する。
「甲乙」とは何か
企業間取引は本来、一方が製品や役務を提供し、他方が代金を支払う対等な相対取引だ。ところが韓国では、この関係に上下の含みが生じやすい。
甲乙の構図は大きく2種類ある。ひとつは供給する側が甲になるケース。その甲を通さなければ商品供給や販売機会を得られない場合だ。もうひとつは購入する側が甲になるケースで、甲が発注者かつ代金支払い者にあたる。
報じられてきた組み合わせを見ると、両方の型が混在している。
・大手百貨店(甲)― テナント(乙)
・FC本部・コンビニチェーン(甲)― 加盟店(乙)
・建設会社(甲)― 下請け業者(乙)
・銀行(甲)― 中小企業(乙)
・乳業会社(甲)― 販売代理店(乙)
・テレビ局(甲)― 制作会社(乙)
共通するのは、規模の大きい会社が甲、小さい会社が乙になりやすいという傾向だ。
なぜ韓国で起きやすいのか ── 産業構造の問題
背景には韓国の産業構造がある。多くの分野で財閥系の大企業が大きなシェアを持ち、供給が寡占的になりやすい。
さらに、財閥企業と競合できる中規模企業が育ちにくく、財閥企業と零細企業に二極分化している分野が少なくない。中間層の企業が薄いため、大企業から零細企業への圧迫が起こりやすい構造になっている。
決済慣行の違い ── 日本の「掛売り」は通用しない
在韓日系企業がとくに注意したいのが決済慣行の違いだ。
日本は掛売り(信用取引)が主体である。メーカーA・販売者B・購入者Cという流れなら、AとB、BとCそれぞれで掛取引が行われ、BはCから入金を受けたあとにAへ支払う、という順序が成り立つ。Bの規模が大きく、継続的な取引関係があれば一般的な形だ。
一方、韓国はAとB、BとCとも即時決済が主流だ。ところが日系企業(C)のなかには、日本と同じ取引条件をそのまま求める会社が少なくない。
ここに落とし穴がある。商習慣を上回る信用取引(掛買い)の要求は、相手にとっては資金繰りの負担を一方的に押しつける行為になりうる。無理な価格や納期の要求も同様だ。意図せず自社が「甲」の側に立ってしまう可能性がある。
在韓日系企業が取るべき対策
日系企業は取引相手から無理な要求を受けることもあれば、逆に発注担当者が納入業者を格下に見てしまうこともある。どちらの側にも立ちうる。
日系企業はトップが2〜5年で交代することが多く、その節目にスタッフの職務分掌=権限を見直す機会がある。このとき、社内の権限設計だけでなく、顧客はもちろん下請けを含めた社外への対応まで併せて検証することをおすすめしたい。ハラスメントの予防という観点からも重要な作業になる。
具体的には、決済条件を現地の商習慣に照らして妥当か確認する、担当者レベルで価格・納期の要求水準が過大になっていないか点検する、といった実務的な見直しが有効だ。
よくある質問
Q. 「甲乙」とは?
A. 契約書で発注者を甲、受注者を乙と表記する慣行から来た言葉で、韓国では取引上の力関係を指す言葉として定着している。
Q. 韓国と日本で決済慣行はどう違う?
A. 日本は掛売り(信用取引)が主体だが、韓国は即時決済が主流。日本と同じ条件をそのまま求めると相手の資金繰りを圧迫しかねない。
Q. なぜ韓国で甲乙問題が起きやすい?
A. 財閥系大企業と零細企業に二極分化し、中間層の企業が薄いため、大企業による圧迫が生じやすい構造がある。
Q. 日系企業が気をつけることは?
A. 決済条件が現地の商習慣に合っているかの確認と、社外(下請け含む)への対応を含めた権限設計の見直し。

