韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
韓国で日本人を対象にした無料サービスが増えている。利用者に商品やサービスの感想をSNSで発信してもらい、日本人観光客を呼び込む狙いだ。実施しているのは飲食店、観光地、化粧品店、美容整形と多岐にわたり、最低フォロワー数を設ける例も一部にあるが、大半は条件を設けていない。2025年1〜11月に韓国を訪れた外国人観光客は中国が389万4千人で最も多く、日本291万4千人、台湾155万5千人、米国100万5千人と続き、日中の2カ国で全体の65%を占める。ただし中身は対照的だ。中国は団体旅行が多く、韓国政府が旅行会社を通じた団体に限って観光ビザを免除していることもあり、誘致は旅行会社頼みになる。一方の日本人は個人旅行が圧倒的で、情報源も従来の旅行会社や旅行雑誌からSNSへ移っている。
日本人無料を最初に始めたのは韓国観光公社だった。公社は2013年4月から10月まで月1回、20人前後のソウル在住日本人を対象に、ソウルを起点として韓国各地を訪ねる無料ツアーを実施した。日帰りか1泊2日で、交通費や宿泊費は公社や地元自治体が負担し、参加者の負担は集合場所までの交通費程度。その代わり、旅行後に自身のSNSやブログでの発信が義務付けられた。続いて平昌オリンピックを控えた江原道が、五輪会場となる平昌郡と江陵市、周辺地域を訪問する無料ツアーを実施すると、複数の自治体が追随した。誘致キャンペーンに在韓日本人を起用するメリットは主に三つある。第一はコストで、旅行会社の現地視察費や航空運賃がかかる中国などと違い、在住日本人なら実費だけで済む。第二はSNSの発信力。そして第三が、韓国語が通じることだ。ソウルでは日本語表記や日本語話者が少なくないが、地方で日本語が通じる施設や飲食店は稀である。
当初は公社や自治体が主催する地方観光が主流だったが、コロナ禍以降は民間事業者が参入し、業態が一気に広がった。韓国料理店、韓国人が経営する日本料理店、化粧品店、ホテル、美容整形——飲食店や化粧品店はサービス上限額を設けて超過分を自己負担とするものが多く、ホテルは1泊のみ無料、美容整形は複数の施術のうち1つを無料で提供する方式が主流だ。日本大使館に在留届を出している日本人は約4万人で、その6割以上がソウルとその近郊に集中する。この首都圏在住日本人から訪韓日本人へ発信してもらう仕組みだが、受け入れ体制が整っていない観光地や実施店も少なくない。
まずは交通アクセスである。韓国の鉄道は大半の駅施設に日本語表記があるものの、ソウルと地方都市を結ぶ路線は貧弱で、地方への移動は高速バスが一般的だ。ソウル市内の長距離バスターミナルには日本語があるが、地方は韓国語表記のみというターミナルが多く、日本語を理解する職員は皆無に等しい。筆者も、地方のバスターミナルで日本人旅行者と職員が言葉が通じず、双方とも困り果てている場面に遭遇したことがある。公社や自治体のツアーなら主催者が移動手段を手配し日本語ガイドが案内するが、個人旅行者がガイドを依頼できるケースは稀で、韓国語ができなければ途方に暮れることになりかねない。日本語が通じる店舗や業者を事前に探しておくなら、KOREA Benriタウンページも参考になる。ソウルの飲食店も同様で、看板やメニューが韓国語表記しかなく日本語を話す店員が皆無なのに、日本人無料を実施する韓国料理店がある。とりわけ深刻なのが美容整形だ。日本語通訳を用意するとはいえ、専門用語の多い医療機関で正確に伝えられる通訳者は少なく、誤訳が深刻な事態を引き起こす可能性は排除できない。SNSの口コミが瞬時に拡散する時代である。受け入れ体制が不十分なまま無料サービスを提供すれば、好意的な発信どころか、トラブルの拡散装置となりかねない。韓国観光の魅力を高めるツールになるのか、信頼を損なう諸刃の剣となるのか——その分岐点は、事業者がどれだけ真摯に受け入れ体制を整備できるかにかかっている。
▶ 詳しくはニューズウィーク日本版で
韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち(特派員・Kaz(佐々木))



